コラム
COLUMN in a monthly

ビジネスに活かす
メンタルトレーニング

本稿は自動車雑誌連載記事です。

第4回 鉄人のゴルフ

 皆さんは、フレンチの鉄人・坂井宏行さんをよくご存じだと思います。坂井さんは、1995年から2001年まで続いたテレビ番組「料理の鉄人」にフレンチの鉄人として出演し、その最終回となる鉄人最終対決でみごと勝利を収め「最高鉄人」の称号を得た方です。
 あるゴルフ雑誌から、「メンタルの達人」という連載をしたいので、私に指導役をやってもらえないかという依頼がありました。そして私のメンタルレッスンを受ける相手というのが、坂井さんだったのです。

 第一回目の指導は、1999年5月の連休のときでした。場所は栃木県のロペクラブ。初めてお会いした坂井さんは、テレビの画面からも伝わってくるとおりのとても気さくで温かいお人柄の方でした。
 最初のハーフ、私はもっぱら坂井さんのプレーぶりを観察していました。私には、これまでにも高橋勝成プロ・牧野裕プロなど、たくさんのトッププロたちのメンタル面チェックをしてきた経験があります。ですから、アマチュアとしては上手な部類に入る坂井さんといえども、メンタル面ではたくさんの改善点が浮き彫りになってきました。
 そこで午後のラウンドの前に、こんなことをやりました、ドライバーからサンドウェッジまで、10本のクラブをすべて10球ずつ打ってもらい、その距離と左右の方向性のブレをすべてチェックしたのです。その結果、ドライバーと7番アイアン以降の短いクラブは合格でした。逆にスプーンと5番、6番アイアンはほとんど使う意味がないということがはっきりしました。

 そこで私は、坂井さんのゴルフバックから確率の悪いクラブを全部抜いてしまいました。かくして坂井さんの立派なゴルフバックには7番アイアンからサンドウェッジまでの6本のアイアンとドライバー、そしてパターの合計8本が残ったわけです。
 こうしてスタートした午後の最初のパー5で、坂井さんは一打目のドライバーをみごとにかっ飛ばし、フェアウェイをキープしました。これまでのパターンでしたら、ロングホールのセカンドは必ずスプーンで打とうとしていました。ロペクラブの10番ホールは、約500ヤードのパー5です。坂井さんのようにドライバーを240ヤードほど飛ばせる人は、残りの260ヤードを2回でのせればよいということになります。
 そこで私は坂井さんに、ミート率80%で、距離150ヤード近くは飛ぶ7番アイアンをもってもらいました。「パー5のセカンドを7番なんて」と、ちょっと不満げな坂井さんでしたが、「150ヤード先のあの辺りにボールが止まるのをイメージして」という私の声にうながされるようにクラブを軽く振ると、結果はナイスショット。残り90ヤード地点の平らなフェアウェイにボールは止まりました。
 この距離はミート率100%のアプローチウェッジでぴったりです。でも油断は禁物。ついピンをデッドに狙いたくなるところですが、私は「坂井さん、バーディー狙いはもうちょっとあとにしましょう。まずはグリーンの真ん中にボールが止まることをイメージして打ってください」と言ったのです。なんだそれでいいのかといった表情で3打目を打つ坂井さん。軽いスイングで打たれたショットは、なんとピン手前2メートルにつきました。バーディーパットは惜しくもカップに蹴られてしまいましたが、オーケーパットで軽くパーで上がりました。

 「どうですか坂井さん。午前中は、パー5のセカンドは、まるで決まり事のようにスプーンを持っては、大たたきを繰り返していましたよね。それがこんなに簡単にパーがとれるんですよ。午後はこういうゴルフをやりましょうよ」と言う私に、坂井さんはキツネにつままれたような顔をして、2番ホールに移っていきました。残りの8ホールも私の言うことを素直に(?)聞いて堅実なゴルフを続け、午後のラウンドは42で回りました。午前中が49でしたから、なんと7打も縮まったのです。

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