コラム
COLUMN in a monthly

ビジネスに活かす
メンタルトレーニング

本稿は自動車雑誌連載記事です。

第6回 狙いを絞る

 プロ野球のバッターたちは、「良いボールが来たら打とう」と考えて打席に入っているわけではありません。そんないい加減なスタンスでは、とても140km以上で近づいてくるボールをミートすることなどできないのです。
 それでは、どのような心構えで打席に入れば良いのでしょうか。それは「狙い球を絞る」ということです。もちろんそうするためには、打席に入るまでに最低限、次のことを終えておかなくてはなりません。

・状況を分折し、判断する(ランナー、守備体形など)。
・サインを見る。
・自分がやるべきことを正確に把握し、イメージする。

 こうした準備を終えれば、狙い球は自ずと絞れてくるはずです。この点について、大リーグで打率4割という驚異的な記録(1941年)を打ち立てたテッド・ウィリアムスはこう言っています。

 「ピッチャーがすばらしいスピードボールを持っていたら、ボールを見てからバットを振ろうかどうか決めるなんてできっこない。ボールがどこに来るかをあらかじめ予想していなければ、とてもミートできるもんじゃないよ。おまけに予想していたコースにボールが来ても、速い球だとそれでも振り遅れてしまうことが多いんだ。そんな時には、バットを振り出すタイミングを少し早めてみる。
 ただし空振りやうまく当たらなくても、決して自分のスイングを分析したり、変えたりしてはいけない。相手のピッチャーのボールに合わせてスイングを変えるなんていうのは、三流のライフル射撃の選手が、うまく的に当たらないからといって、ライフルをとっかえひっかえするのと同じさ。そんなことをすれば、自分のバッティングを崩してしまうだけだ。
 空振りしたからといって、あんまりあれこれ考えることはない。空振りなんてものは、バットがボールの上か下かを、まあたいていは下なんだけど、通り過ぎただけなんだから。僕はバッティングっていうのは、すごくシンプルなものだと思っているよ」(『野球のメンタルトレーニング』、大修館書店、1993年)。

 テッド・ウィリアムスのような大打者でも、いや彼だからこそ、結局、事ここに及んでは「一つに狙いを定めたら、あとはあれこれ考えない」ことだと言っているのです。
 このように集中というのは、ある一点に狙いを定めるということです。プレーする前に、どこに自分の注意の焦点を当てたらいいかを知っている選手は、高いパフォーマンスを発揮することができます。さらに注意を払うポイントが細かければ細かいほど、より高い集中力を得ることができます。たとえば、バッターがただ漠然とボールを見ようとするよりは、ボールの回転に注意を向けたほうが、ずっと集中力は高くなります。

 ゴルフのパッティングには、とても繊細なタッチと集中力が要求されます。しかし、1m程度の短いパットならいざ知らず、10m以上の長いパットでは、「カップを中心とした半径1m以内に近づければよし」というのが、一般的なセオリーです。ところが、ゴルフのメンタルコーチとして有名なボブ・ロテラ博士は、「どんな長いパットでも一発で入れるつもりで打て」と教えます。彼の考えでは、こちらのほうがはるかに集中力が高まるからです。そして結果的には、仮にカップインできなくても、簡単にカップインできるところまで寄っているものです。
 こうした事例からも明らかなように、良い結果を残す選手は一瞬一瞬にやるべき目標(狙い)を明確に持っています。こうした瞬間ごとの到達目標のことを、メンタルトレーニングの世界では「実行目標=アクションプラン」と呼んでいます。
 スポーツに限らず、勉強や仕事でも高い集中力を保って大きな効果を上げたいのであれば、はっきりしたアクションプランを持つ、つまり狙いを定めた行動が不可欠です。ただ、「今日も一日頑張ろう」では、おそらく何も得ることはないでしょう。

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