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メンタルトレーニング

本稿は自動車雑誌連載記事です。

第10回 正しい立ち方、歩き方 その2

 前回では、旧ソ連の体操コーチたちがとても大切にしている「白樺のポーズ」のことをご紹介しました。このことを知った1994年、私の同僚で陸上競技の専門家である川本和久先生に話したことがありました。川本先生は私より4歳年下で、毎日のように陸上競技場で指導にあたっているきわめて実践的な研究者です。先生の卓越した指導力により、この二十数年の間に福島大学から日本を代表する陸上選手が次々と輩出されるようになりました。

 先生は1991年にカール・ルイスのコーチとして世界的に有名なトム・テレツのもとに留学しています。私がラズモフスキーから聞いた「白樺のポーズ」の話をすると、先生からびっくりするような反応が返ってきました。
 「白石先生、それでわかりました。カール・ルイスの走り方は、その白樺のポーズそのものなんです。これまで日本では体を前傾させて走れとか、地面を強く後ろに蹴って走れとか言っていましたけれど、実はそうではないんです。そのことにアメリカで気づいてはいたんですが、どう説明したらいいかわからなかったんです。つまり、彼らは地面に対して真下に蹴って、地面からの反発力を全身で受け止めるような走りをしているんです。ところが今までの日本の考え方だと、どうも腰のところでエネルギーが抜けていってしまう感じがしていました。『白樺のポーズ』の骨盤の使い方なら確かに全身の一体感が出てきますよね。今日はいいことを聞いたなあ。ありがとうございます」
 その時の川本先生の嬉しそうな顔は今でもよく覚えていますが、嬉しかったのは先生ばかりではありませんでした。体操競技における「白樺のポーズ」の大切さに気づいた矢先に、その思わぬ汎用性の高さと応用可能性の広がりを教えてもらって、むしろお礼を言いたいのは私の方だったのです。その後、注意して見ていると、さまざまなスポーツのトップアスリートの動きの中に、まったく同じような姿勢があることに気づきました。
 アトランタオリンピックで驚異的な世界新記録を出したマイケル・ジョンソンや1998年のアジア大会を制した伊東浩二選手の走り方は、その典型的な例でしょう。

 「白樺のポーズ」の基本は、クラシックバレエの一番ポジション―密着させた踵を中心に両つま先を180度外側に開く、つまり股関節を外旋するところにあります。しかし、これではまっすぐに立つことはできても、歩くことはできません。それでは足先を進行方向に向けたままで、同じような骨盤の操作をすることができないだろうかとあれこれ模索しているうちに、中国の気功法や東洋的な武道の訓練の中にそのヒントを見出すことができたのです。

 具体的には、お臍の真後ろの腰骨(腰椎の3番)をほんの少し操作するだけで、私たちの体は安定したり、ぐらぐらしたりするということがわかったのです。写真1は、川本先生の一番弟子で女子陸上競技100mの日本記録保持者である二瓶秀子さんに、お臍の真後ろにある腰骨を後ろに軽く突き出してもらったものです。逆に写真2はそれを前方に動かしてもらったものです(感覚的にはお臍を軽く前に出し、腰を入れる感じ)。どちらがすっきりした立ち姿勢かは一目瞭然だと思います。
 さて今度は、写真3と4を比べてみてください。まず写真3では、二瓶さんに「へっぴり腰」のままで歩いてもらいました。いかにトップスプリンターでもこれではなんとも不恰好だし、なによりも速く歩くことはできません。
 次に写真4では、お臍の真後ろの腰骨を前に出した基本姿勢から、お臍ないしはそのやや下の「お腹のアーチ」頂点から前方へ出て行くように歩いてもらいました。動きのリズムやスピードを誌面で伝えることは難しいのですが、それでもそのスッスッというなめらかな足運びやスピード感を見て取ることができるのではないでしょうか。
 実際にこの歩き方を試していただくとおわかりになると思いますが、気持ちもシャンとして颯爽と大地を闊歩しているご自分に、きっとびっくりされるでしょう。


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