コラム
COLUMN in a monthly

ビジネスに活かす
メンタルトレーニング

本稿は自動車雑誌連載記事です。

第17回 プレッシャーと
       どう戦うか その2

 前回は、場所の違い、移動、天気、気温、観衆などといった、外から加えられるプレッシャーにどのように対処すればよいかについてお話ししました。今回は、自分の内側からかかってくるプレッシャーをどうコントロールするかについて説明します。
 英語で動作のことをmotionと言います。そして内なる心の動き、つまり感情のことは“e”を一つくっつけてemotionと言います。
 「うまくやりたい、でも失敗したらどうしよう」などというのは、すべて自分の心が生み出すプレッシャーです。こうした内側から発生するプレッシャーは、感情を上手にコントロールすることで対処することができるのです。逆に言えば、自分をコントロールするためのもっとも大きな障害は、感情の乱れであり、本番で最高のパフォーマンスを発揮するためには、自らの感情をコントロールする能力を養わなければならならないというわけです。
 テニスのメンタルトレーニングの世界的権威であるジム・レイヤーは、長年の研究の結果、スポーツ選手の試合中の感情レベルは次の4つに分けることができ、それはある特徴的なしぐさによって外からでもはっきりと見てとることができると言っています。

1. あきらめ(無気力なしぐさ、言い訳、戦意喪失などが特徴で、エネルギーの状態は低く消極的)
2. 怒り(イライラしたしぐさ、暴言、険悪な表情などが特徴で、ネガティブエネルギーが充満している)
3. びびり(懸命に戦おうとしているのだが、動作が気ぜわしくピリピリしている、いわゆる過緊張状態)
4. チャレンジ(強く自信にあふれた態度、プレッシャーをむしろ楽しむかのような余裕のある表情が特徴で、エネルギーの状態は高く積極的)

 このようなしぐさや表情、姿勢や言葉など、内なる心の動きである感情は、外から見て取ることができます。レイヤーはこれを逆手にとって、外側の姿勢や表情などをコントロールすれば、内側の感情をコントロールできるということを発見しました。つまり、emotion(感情)をコントロールしたければ、motion(動作)をコントロールせよというわけです。

 では、具体的にはどうするか。まず、第10回でお伝えした白樺のポーズですっくと立ちます。お臍の真後ろの骨(腰椎の3番)を軽く前に押し込むことで腰骨を立て、視線を水平よりやや上げてください。アメリカのメジャーリーグでは、気力を奮い立たせるために、よく“heads up”という言葉が使われます。また先年亡くなった、ゴルフの名手サム・スニードも、「フェアウェイはジャングルだ。だから決して頭を垂れるようなことがあってはならない」と言っていました。
 そうやってつくった、どっしりと安定した体の上に、笑顔をのせてください。「苦しい時こそ笑顔で」。これは、私がメンタルトレーニングを指導している選手たちに、たえず言い続けている言葉です。笑顔は、およそ人間の顔の中でも、もっとも美しい顔であり、強い顔でもあるのです。
 不動の体に笑顔をのせたら、今度はゆったりと呼吸します。最後に心の中で、こうつぶやくのです。「私は絶対だいじょうぶ。誰にも負けない強い心と体を持っている。今、この瞬間に集中して、目の前の仕事に全力を尽くそう」と。
 誰でも、楽しい時、嬉しい時には自然に笑顔を浮かべます。でも、苦しく辛い時に笑顔になれるでしょうか。普通はそんなことはありません。たいていの人は苦悶に顔をゆがめたり、ひどい時にはまるで夜叉のような恐ろしい顔になったりもします。
 背中を丸めうなだれて、しかめっ面で文句ばかり言っている人に、勝利の女神が微笑んでくれるようなことは決してないということを、どうか肝に銘じていただきたいと思います。

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